8月18日(木)①西馬音内盆踊り(秋田県羽後町)

西馬音内(にしもない)盆踊りは毎年8月16〜18日のお盆休みの時期に催される盆祭りです。正応年間(1288年〜1293年)頃から豊年祈願として始まったと伝えられており、以来700年以上の歴史を有し、昭和56年、盆踊りとしては全国で初めて国の重要無形民俗文化財に指定された秋田県でもかなり品位のあるらしいお祭りです。

全国的に見れば有名な盆踊りは他にも数多くありますが、次の日から同県鹿角市内で行われる「花輪ばやし」も同時に見たかったので今回秋田県を訪れた経緯があります。

 

会場へのアクセス…最寄り駅の湯沢駅から路線バス、またはタクシーで15〜20分の場所にある西馬音内町内で開催。

 

昼前に東京駅を出発し宿泊場所の横手駅についたのは17時でした(横手駅は湯沢駅から20分ほどの駅です)。駅から徒歩15分ほどのビジネスホテルにチェックインしそこから支度を整えて会場に到着したのはなんと20時前...。なぜこれほど時間がかかったのかというと事前調査不足で電車がくる間隔を見誤り横手駅で40分ほど足止めを食らったことが要因です...。湯沢駅からの路線バスもすでになくなっておりタクシーでも20分ほどかかりました。西馬音内町までの道は信号がほとんどない、まさに田舎道で本当にこんなところで有名な盆踊りがやっているのかと疑念をいだきながら会場に向かいました。タクシー運転手の方によると昔は西馬音内まで路面電車が走っていて風情があったが、道路開発によりなくなってしまったとのこと。

 

タクシーを降りた場所は会場から少し離れた場所でしたが、電柱ごとにくくられたスピーカーから町内中にお囃子が流されており、地域のお祭り感がすで醸し出されていました。盆踊りの会場までの道中もレトロな街並みが連なり哀愁がありました。

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メインロードにはすでにたくさんの見物人で埋め尽くされておりこんなに駅から離れたお世辞にもアクセスがいいとはいえない(失礼ながら)辺鄙な場所によく集まったなとその集客力にまず驚かされました。

参考にしてる書籍によると人口1万6000人の町に毎年10万人以上の集客があるとのことです。

 

メインロードで伝統の「亡者踊り」を踊っているのは女性と子供が主で、ほとんどの人が被り物(編み笠)や頭巾(彦三頭巾)などで顔を隠しておりその姿はまさに亡者のようです。しかしその踊りは「最も美しい盆踊りの一つ」と言われるのも頷けるほど優美かつ哀愁の漂うものでした。また、まとっている端縫いの衣装は代々着物の切れ端を縫い合わせたものであるとのことでそれも美しかったです。

ちなみに編み笠を被っているのが成人女性、彦三(ひこさ)頭巾をかぶっているのが未成年の女性であるという決まりがあるようです。

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踊りのお囃子には「音頭」と「がんけ」があり「音頭」は踊り手の妖しい風貌とは正反対のかなり陽気なリズムです。「がんけ」は逆に哀愁の漂うリズムで「音頭」と交互に踊るようですが、初見ではちゃんと見て聞かないとその違いがわからないと思います。「音頭」は「フウー、サガサッサ」「あ〜どっこいな」「あ〜それそれ」が主な節で、歌の内容は支離滅裂かつへんてこな歌詞(即興だったりするらしい)で連ねられており、時にはかなり下世話な内容の時もありましたがその度に会場の笑いを誘っていました。個人的に歌い手によっては明らかに笑わせようという歌い方してる節があるところが最高だなと思いました。

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踊りを一通り見た後に櫓の前でこの地で昭和八年から80年の間店を構えてる菅粂商店の店主の方に話を伺いました。

Q.地域の人にとってこのお祭りのいいところはどこだと思われますか?

ーやっぱり地域の人がこの3日間は一体となって祭りを盛り上げているところだと思います。でもまあ国の重要無形文化財に登録されてからは人出も多くなって県外から見にくる人もかなり増えましたね。形式にしても僕が子供の頃(1970年頃?)なんかは服装なんて決まってなくてお酒飲みながら踊って疲れたら休んでまた踊ってってかんじでかなり自由でした。今は有料席なんかが設けられてるけどお客さんも地べたに座ったりなんかして。

 

Q.やはり観光資源としての色合いが強まっていると感じますか?

ーそうですね、それは強く感じます。15年くらい前に久米宏さんのやってたニュース番組で生放送された時なんかがピークでしたね、今はこれでもかなり落ち着いていますよ。僕らにしても地域のお祭りとしてはもちろんだけど観光としての意識はやっぱりあって今のカタを大事にしてるところはある。昔は上手い人の踊りを見て体に覚えさせていたんだけど今は幼稚園から教えたりして。

あと、県外から踊りに参加する人も増えていますね。今だとyoutubeとかで踊りの動画があがっているのでそれを見て覚えてくる人とか大学の踊りのサークルがバスを貸し切って参加する人達なんかもいたりします。地域の「踊りの輪」に色んな人が入ってきているかんじですね。

まあ「地域」と「観光」のバランスは有名な祭りであればどこも抱えていることだと思いますよ。僕は「観光」の方が強くなっていると思いますけどね(笑)

 

Q.踊りの後継者不足の問題などはありますか?囃子はベテランの方達に見えますが。

ーそれは実はないんですね、ありがたいことに。上手く受け継がれていると思います。

囃子は確かにベテランの人がやってるんですけど実は太鼓を叩いてるのは若い男の子だったりします。嫁入りなんかで県外に出ていってもこの祭りの時期だけは戻ってきて踊ったりね。やっぱり有名なだけあってしばらくはまだ大丈夫なんじゃないかと思いますね。

 

貴重なお話ありがとうございました。

帰りはここの店主の方に紹介してもらった江戸時代から続くこの地で一番の老舗である「弥助そばや」で蕎麦を食べて帰りました。美味しかったです。

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全体の感想としては地域的な側面と観光資源としての側面のバランスがとてもいい祭であると感じました。重要無形文化財の名に恥じない格式を守りつつ地域の人も観光客も気を抜いて楽しめていて初めて来た自分でも緊張せず堪能することができました。観光客目当てガツガツした感じやまたその地域の内輪的な堅苦しさもなく誰もが祭りの輪の中に入っていける安心感のようなものがこの西馬音内盆踊りの一番の魅力だと思いました。


余談ですがタクシー運転手の方々が皆さん気さくな秋田弁を話すとてもいい人達で 秋田にとてもいい印象を持ちました。実はこういうところに一番風土を感じられるのかも知れません。